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佐藤純雄のハンドメイドパイプ講座
 

佐藤純雄のハンドメイドパイプ講座

copyright by 佐藤純雄
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lesson.1 ハンドメイドパイプとグレイン、デザイン
 1.ハンドメイドパイプとマシンメイドパイプの話

 

両者は材質による違いはありません。原産地での材料(原木)の採取から、木取り、乾 燥を経て市場に出ますが、木取りの時点で両者に分けられます。
図1 地中の根塊
図2 根塊の内部状態

 

 

パイプ用材ブライヤーについて 19世紀初め、コルシカ島でブライヤーが発見されて以来、急激に世界のパイプが変化 しました。
その理由として、それ以前に使われていたメシャムや、クレーなどに比べて壊れにく く、丈夫である事、また、耐熱性にも優れ、他の木材よりはるかに燃えにくく、熱に 強い、多孔質で緻密であり、放熱がよい点が挙げられます。
放熱が良いということは、クールスモーキングに欠かせない特質であり、燃焼時の放 熱を助けるパイプには最適な素材なのです。 ブライヤーはツツジ科の落葉潅木、学名ERICA ARBOREA(エリカアルボリア)の木の根 です。
小さな根塊は大変強く、岩場の山麓に自生し、到底他の植物生育には適さない環境の 中に育っています。
原産地はイタリア、フランス、スペイン、アルジェリア、ギリ シャなど地中海沿岸地方に多くみられます。


現在のブライヤーパイプは、農民がブライヤーを発見したことに始まります。
それ以前はメシャム、陶器のパイプが中心で、壊れ易い欠点がありましたが、それを 補って余りある素材であったわけです。
50年以上の根塊を掘り出し、工場で木片にされますが、大きな「傷」、「割れ」、 「小石」 などを取り除き、国際基準に基づき質の等級、大きさの種類に分類され、樹脂やター ル分を除くため煮沸し、日陰で充分に乾燥して出荷されます。原木の表面の赤茶色は 煮沸時に付着した「あく」です。

 

図3 ハンドメイド用にカットされた根塊

輪切り状にした根塊は、グレインの方向がブロックに反映される方法でカットされま す。
図4 マシンメイドパイプ用のカット

大きな根塊を輪切りにすることなく、グレインの方向に関わらずランダムに木取りし ます。この方法は大量の需要に応じられますが、ストレートグレインは偶然の産物に なり、希少価値となります。
しかし、最近は意図的にストレートグレインの木取りがなされていると聞きます。


lesson.1 ハンドメイドパイプとグレイン、デザイン
 2.ハンドメイドパイプのグレインの話 コロ(原木)を横に輪切りにすると、パイナップルのように中心部に芯があり、底から 周囲に木理(グレイン)が伸びています。そして木理の行き止まりが「ラフ」、これが 成長点で、その成長過程がグレインです。
そのグレインを直角に切って出来た面には「バーズアイ(鳥の目)」が出ます。つまり、 ラフのボツボツを削り落とすとバーズアイになります。
パイプはこの二つのグレインから構成されているのです。まことに単純な理屈です が、ストレートグレインからバーズアイに移行する過程でさまざまにグレインが変化 し、表情が現れます。それらがパイプに表現されたとき、掌に入る大きさのた かがパイプ、されどパイプ、そのパイプがありがとうといってくれるでしょう。
最高の喜びと満足感を得られる、くつろぎの一時です。
それゆえにパイプ作りはやめられない楽しみになり、深みにはまって行く!!!

プラトウでの基本的なシェイプ
◆図1 最も基本的なストレートグレイン。上方に向かって扇型に広がりを見せるが 全て一直線とは限らず、途中で乱れを生じ、流れが変わったり、消えたりもする。こ のグレインをフレームグレイン(炎の形を表現)と称する。

◆図2 前記とは逆のグレインで、扇状のグレインが底に向かって流れるグレイン で、底の部分の曲面に出るバーズアイの変化を楽しむことができる。

◆図3 スマートな、シャンクの長い形状で、シャンクに現れるグレインは独特な味 わいが出る。

◆図4 今まで記述した例のまさに発想の転換であった。ストレートグレイン部分が 脇役で、バーズアイの変化がパイプ表面全体に表現されている。


ハンドメイドパイプの製作方法として、まずデザインを考え、そのイメージに合ったグレ インの原木から作り出す方法と、逆に、原木ありきで、そのグレインを生かした形を 作り出す方法があり、両方が考えられるがどちらを選択するかは自由である。
次に、グレインの生かし方による名称の分類を説明する。名称はあくまでイメージ であり、ローカルなものとして考えて欲しい。

◆図5 ストレートグレインパイプ
ボウルの側面、周囲がストレートグレインに囲まれているパイプ。ボウルトップと ヒール部にバーズアイが出る。パイプの中でも高価なパイプでポピュラーである。

◆図6 クロスグレインパイプ
ストレートグレインと、バーズアイが交互にボウルの周囲を飾っているパイプで、両 グレインの境目をエッジで切ることでパイプの繊細さが際立つ。ハンドメイドの面白 さを堪能できる形の一つである。

◆図7 ホリゾンタル(水平)グレインパイプ。
ストレートグレインがボウルの前後、水平に走っているパイプで、バーズアイが広く 出るパイプ。ストレートグレインが特に綺麗に対称に走っているもの。

◆図8 シンメトリックグレインパイプ
ストレートグレインがボウルの左右に対照的に走っているパイプ。

概ねこのように分類することができよう。しかし、ハンドメイドパイプは、そのグレ インを活かしつつ作る性格上、これらに当てはめようとするには無理があり、グレインを追っ て作ることにより、形が生まれるわけであり、これこそハンドメイドパイプの大きな 特徴である。

lesson.1 ハンドメイドパイプとグレイン、デザイン
 3.シェイプのデザイン
次回からハンドメイドパイプの実勢を説明してゆくことにしますが、入門の基礎とし て市販のキットを使い、クラシックシェイプの直、曲を作り、ハンドメイドの基本を 学んでいただくことがフリーハンドへの近道です。
クラシックシェイプの代表はビリアードと、その曲がりのビリアードベントこそ基本 中の基本で、作り方、注意点を説明していきます。
キットに付いている原木はクラシックシェイプ仕様を利用しています。 ◆図1 原木(エポーション)からのデザイン


◆図2 実際のリアルなデザイン



あくまで喫煙の道具である以上、使いやすく、丈夫でなければ用を成しません。 いまさら述べるのはくどい様ですが、ボウル、シャンク、マウスピースから構成され ています。
一般的に前傾パイプは味が良いとされています。ボウルとシャンクの角度が大きけれ ば、抵抗が少なく、煙がスムーズに口に運ばれるので、たばこの味がそのまま味わえ るわけです。
逆にベントでは角度が小さく、抵抗が大きくなり、味もマイルドに軽く、柔らかい喫 煙が楽しめます。

次回から、いよいよハンドメイド加工の実践に入ります。


lesson2 ハンドメイドパイプ加工の実践(クラシックシェイプ編)
 4.ベント、ビリアードパイプ加工と工具の使い方(荒削り)
市販の原木キットの直(ビリアード)、曲(ベント)が入門用としては適当と考えま すので、この手作りについて説明を進めて行きます。
原木キットが目の前にあります。
原木の他に、工具として鬼目やすり、サンドペーパー3種、着色用の粉染料2色、研磨 剤2種、が入っておりますが、説明を勧める中で必要な工具類があれば、その都度説 明していきます。
前回掲載の3-図2を参照してください。
直、曲がりそれぞれシェイプデザイン図がありますが、同様な手順で進めます。
まず、穴の位置(空間)、ボウルの径、深さ、ダボ穴の深さ、煙道をそれぞれ原木の 表面に描きます。
曲がりの場合の煙道はダボ穴と角度が違うので注意が必要です。焼き鳥の竹串などを煙道 に差し込むと穴の方向がわかります。その竹串を目安に煙道を描いていきます。
また、ダボ穴には鉛筆を差し込み、線引きの目安にしましょう。
穴の位置が描けましたら、次にパイプの形を描いてください。ボウルの部分の肉厚は 中央の厚い部分で最低7~8mm以上は必要です。
最上部のトップは5mm以上が良いでしょう。底の部分の肉厚は5~6mm以上必要です。 直の場合、穴が直角にあいている場合がありますが、ボウルトップを少々前傾させる とスマートに仕上がります。
シャンクは直の場合はボウルの付け根から吸口までほぼ平行で良いでしょう。
曲がりの場合は先に説明しましたが、煙道の方向が違うので、付け根の部分を太く吸 口に向かって細く描きます。
概ね描けたら、ぼちぼち作業に取り掛かりますが、この来は非常に硬い材料で、鑢だ けで加工するとかなり時間がかかります。隅を削り取るだけでも大変厄介です。でき れば鋸で予め、概ね描いた線に沿って切り落としたいものです。
鑢削りに使用するのも非常に便利です。万力をお持ちの方はフルに活用しましょう。 鋸も慣れないと難しいもので、描いた線の方に寄ってくる事が多々あります。角から 角へと落としていけば無難です。
鋸の歯は細かいものより、荒目のほうが使い易いです。ほぼ鋸引きも終わったところ で鬼目やすりの作業に移ります。
手袋をつけて外傷をせぬよう、ゆっくり進めてください。
利き手の反対の手でしっかり持って削りますが、全体の 形を見ることをしばしば行わないと吸口とシャンクの方向(角度)が変わってしまう 事ありますので要注意です。
次は、中間加工(仕上げ)です。



lesson2 ハンドメイドパイプ加工の実践(クラシックシェイプ編)
 5.中間加工(中間仕上げ)
前回、まず原木を削り始めることでハンドメイドパイプ作りがスタートしましたが、非常に硬い木である事を実感していただけたことと思います。
マウスピースの付け根にビニールテープを巻き、どんな方法でも構いません、ややパイプの形が出てきたら、まずは一休み。
全体の彫り具合をチェックしてみましょう。左右、上下、前後から眺め、全体にねじれがあるか、ボウルとシャンクのつながりはどうか、ボウルの高さ、外周、チャン バーの底の肉厚はどうか(親指と小指で厚みを感じ取れます)、左右のバランスは良 いか等々、確認しながら削り、また眺めながら、段々とパイプらしくなってきます。
この一連の作業は、マウスピースを外さずに削るのがコツです。外して削っていくと マウスピースとシャンクの方向が違ってしまうことがありますので要注意。
図5-1は曲がり方の削りの要注意点です。

Aの部分が構造上薄くなりますから充分厚みを確保しておきます。図5-2を参考にし、 作業を進めていきます。

ほぼ形が整ってきたら、細目やすりで鬼目やすりの削り目を削り取ります。
揃えるやすりは鉄工用組やすりと称する手持ち用の1.5~2cmほどの幅で、長さ20cmほどの平、半丸、 丸の3種類あればよいでしょう。凹凸を取りながら丸く削りこんでいきます。
丸みの部分は半丸やすり、丸やすりを使い、図5-3、4を参考に全体のシェイプを整え ていきます。


シャンクとマウスピースの継ぎ目は、巻いたビニールテープの上を外周 に添って平やすりで作業を進め、その後テープを取り除き、再度平やすりで削ります が、ここでの注意点は、シャンクからマウスピース方向に斜めに滑らすよ うに一体に削っていきます。
途中でマウスピースを半回転させて全体的に違和感無く削れているか確認をし、作業 を進めてください。
掌でボウルを包み、ゆっくりまわすと凹凸がはっきりわかりますから、根気良く凸部 を削っていき、全体が滑らかになるまで作業を進めます。
マウスピースに鑢の削り傷が出来ても最後には綺麗になりますので心配無用。ここま で来れば後一歩でペーパー作業です。
揃えるペーパーは、紙のフリーカット用の軟らかいシート、150、240、320、400番を 各1枚用意すればよいでしょう。
参考までに紙のペーパーより、布のペーパーのほうが同じ番手でも荒いです。その 分、よく切れますが。




lesson2 ハンドメイドパイプ加工の実践(クラシックシェイプ編)
 6.生地の仕上げ
簡単に言えば、着色をするまでの下ごしらえと考えらばよいでしょう。
下地が綺麗に仕上がれば、着色もより綺麗に仕上がりますので根気よく作業を進めて ください。
前回までの作業では、パイプの形が具体的にできつつあり、仕上がりの形状がほぼ見 えてくるころでしょう。
前回の最後にペーパーを用意していただくようにお願いしましたが、まず150番のフ リーカット用ペーパーを、2〜3cmの幅に縦長に切断し(図6-1)、先を3cmほど折り返 し、人差し指と中指の腹にあてがい、親指の腹で軽く支え、人差し指と中指二本で ペーパーを左右に動かしながら作業を進めましょう。

順次ペーパーを折り込んでいきます。
シャンクと吸い口の合わせ目の鑢目も、回転させながら長手方向に動かして取り除き ます。
シャンクの付け根の凹曲面は5cm角ほどにペーパーを切り、丸棒に巻き付ければ作業 はOK。
ボウルトップ平面のペーパー掛けは、残りのペーパーの四隅をセロテープで机または 平面板に貼り付け、軽く回転させながらの作業になります。(図6-2)

ベントの場合は、シャンク上側の凹付け根は棒に巻いたペーパーで行い、緩やかな曲線部は手のひらで吸い口まで動かして一連の線を作ります。
150番ペーパーでは鑢で取りきれない凸凹も比較的容易に処理できます。 まずは150番で全体のシルエットを完成させるぐらいの気持ちで磨きこんでくださ い。
これでもか というぐらいまで、半端な作業で次に進むことは許されません。
この作業中、、疵が出ることもあり、また、以前の鑢の段階で出てくることもありま すが、この入門コースでは気にせずに進めることとします。
掌にボウルを包み込み、回転させ、凸凹もほぼなくなり、鑢目も完全に消え、シャン クと吸い口の継ぎ目の段も取れ、シャンクの付け根の凹曲面も線が綺麗に繋がったようですね。
これでやっと150番のペーパーが終了しました。
次の240番では150番のペーパー目が消えるまで軽く掏り取っていき、150番でほぼ完 成したシルエットを崩さぬように進めてください。
全体に150番の目が消えたら再度シルエットを確認し、次に320番で240番のペー パー目を消し去れば、ペーパー作業が終了になります。
次回は木部の疵の処理と木目出しに入ります。
用意するものはエポキシ樹脂透明30分用、子供が学校で使う水彩絵の具、黒、茶、赤 など、着色用液体染料でよいでしょう。木目出し染料は今回黒を使用します。

vol.2 ハンドメイドパイプ加工の実践(クラシックシェイプ編)
 その7 キズの処理と木目出し(グレイン強調)

ハンドメイドパイプ工程のクライマックスはこのコーナーと次回着色仕上げにつきま す。
前回で記してあります、材料を用意し、さて本題に入ります。
このシリーズでは黒の木目出しの着色方法と、キズの処理を記して行きます。
#320ペーパーで仕上がったパイプを再度見直してください。右側から左側から、 上から下から、前から、吸い口側の後ろから、吸い口先端を持ちぶら下げ、表から裏 から、じっくり納得するまで眺めてください。
私は生地まで仕上げ、2、3日放置し、客観的に冷静にパイプを見る時間を作ってい ます。
その間に何かを発見することもあるからです。納得のいかないまま着色し、仕上げても 後悔することがありそうです。
納得できたらいよいよ着色の第一段階の木目出しに入ります。
黒の液体染料を使用しますが、木材用、比較用、繊維用いずれも可、アルコール染 料、塩基性染料いずれも可、草木染用も可。
まず、パイプ生地を少々湿らせます。湿らせた生地が乾かないうちに手際よく均一に 薄く塗ります。湿らせた生地から水分が抜けるのと入れ替わりに染料が入り込んで行 くのです。
乾くのを待ってから、2回目を濃く塗ります。#400で多少強くペーパーを当て、余分な染料を取り除きます。やがて染み込まない場所 の生地が現れ、生地に染み込んだ黒のグレインがはっきり表れてきます。
全体が均一な濃さになるまで作業します。もし、部分的にグレインが薄い、または ペーパーをかけすぎてグレインが薄くなってしまったら、その部分だけ黒染料を塗り重ねればよいのですが、そのときは湿りを与えないこと、周りの黒色がにじんでしまうこ とがありますから。
この作業中は生地の表面にピンホール、割れ、砂を噛んだピンホールなどが見られる が、それらを気にしないで行うこと。黒の木目出しが終わり、表面に木目(グレイ ン)が出たら傷のことを考えればよいのです。
次にその疵を考えていきます。
黒のグレインの中に現れている疵を処理します。
まず、大きさを確認、芥子粒以下なら未処理で良いでしょう。それ以上の疵を、先の 尖った刃物、千枚通しなどでグレインの方向に沿って細長く疵をつけ、彫りこみま す。
丸い疵でも両端を細長く切り込みを入れます。古い歯ブラシで傷のかすを取り除いておきます。
埋める素材は、エポキシ樹脂透明、30分硬化用を使用することにします。
他に乾いた黒の絵の具(家宅水分の少ないほうが良い)、二液を混ぜたエポキシ樹脂に絵の具を少しずつ加え、黒く なるまで良く練りこみ、細く尖らせた竹串などでつつきながら埋め、少し盛り上げて乾燥 させます。
30分硬化用でも3〜4日そのままほったらかした後、ペーパーで削り落とし、その作 業で薄くなった周囲のグレインを再度黒を塗って出せばよいのです。
疵を絶対見極め出来ないようにするのではなく、疵の穴、凹みを平滑にする作業だと 考えてください。

vol.2 ハンドメイドパイプ加工の実践(クラシックシェイプ編)
 その8 着色と仕上げ

この入門編の8回に亘る講も最終回になり、最終楽章に入ります。
前回黒木目出し(グレインの強調)とその中に顔を出しているキズの処理まで、理解 していただけたでしょうか。
引き続き上塗り着色に進みますが、染料の種類は前回に記してあるもので十分です。 仕上げの色彩も自由に選択してもらい、お気に入りの色を塗りましょう。
さらさらの染料では数回塗り重ねると良く、ねっとりしていれば一回でも良いでしょ う。
指先でこすって色落ちしない程度まで乾かします。完全に乾いたころあいを見て、柔 らかい布にトリポリ(研磨剤セットの赤いほう)を広くこすりつけ、掌に包み込んで ゆっくり研磨して行きます。そうすると着けた色が落ちます。
又トリポリを擦りつけ研磨、の繰り返しで、色がどんどん落ちていきますが気にしな いで進めて下さい。
ボウルトップ、シャンクまで全体を満遍なく磨きますとやがて色落ちが止まった時、 パイプの色になるのです。忘れていましたが、吸い口も細かいペーパーで、木部と一 体に研磨してありますから、吸い口もトリポリ布で十分に、力強く磨きこんでくださ い。
まだひとつ仕事が残っていました。
着色した部分にキズがあちこちに見受けられますが、賢明な読者諸兄には黒の木目出 しの作業が思い浮かんでくるでしょう。
そうです。同じ方法で疵処理を進めます。まてよ・・・両方の色にまたがっている疵 はどうしよう。
これは面積の大きいほうに色合わせするのが無難でしょう。
疵の大小はあまり気にせずに、細い針などで又、ブラシなどで砂を取り除きます。エポキシ樹脂に絵具を混ぜてグレイン上にある疵を埋めましょう。また、全体に塗った色の部分にある疵は周囲の絵に合わせたエポキシで埋めます。
この乾燥にも3〜4日必要です。
完全に乾いたことを確認してのち、#400ではみ出たエポキシを取り除きます。この作業で一部分の着色が消えますが、黒の木目だしの方法で平滑に修正し、先に塗った染料で補正してください。後にトリポリ、タンジーで研磨してください。
何とか色彩の部分の疵埋めも終わりました。
そろそろフィナーレに入ります。
タンジー(研磨剤セットの白いほう)研磨剤を布の上にカッターナイフ削りだした後、包み込んでハンマーで軽く叩いて粉末にしてから、手 指で押しつぶすように布に擂りこみます。
その布の中にパイプ(ボウル)を包み込み、ゆっくり軽く動かしながら研磨し、ダン ジーが布に馴染んできたら徐々に大きく動かして行きます。
トリポリの鈍い光から、やがて掌の布の中から磨きあがった艶のある光沢に包まれた パイプが産声を上げ、私たちに感動を与えてくれる瞬間です。

これでハンドメイドパイプ入門 8回の講が終了します。
この入門編を呼んだ諸兄が、ハンドメイドパイプを作るときにほんの少し思い出して いただければ幸いです。と言うのは、作り方、技術方法論は各自が指先や掌や体で実 感したものが形になって出来上がればよいので、ハンドメイドパイプは各自の個性の 表現方法のひとつだと考えて、真剣に自信を持って作ってください。
あの大指揮者、小沢征爾曰く、「アマチュアの低いレベルの演奏でも、真剣であれば 聞いている人は必ず感動する」
感動の一助になれば幸いです。
理解しにくい説明も多々あったはずです。どうぞお許しください。


vol.2 ハンドメイドパイプ加工の実践(カットプラトウ編)

入門編で実践し、習得した手法を応用し、ハンドメイドパイプを作る段階として、是 非学んでおきたいものである。
カットプラトウの内容、形態をかいつまんで説明しておきます。
1.原材料を小売店で購入。
2.メーカーでは、おおむね注文生産である。通常の商品とは違い、個別に製造して いる。メーカーで外観とグレインが決定されるシステムである。
3.グレインを見極め、たばこの入る孔(チャンバー)と煙道、ダボ穴が決定され加 工される。グレインに過大な期待は厳禁である。
4.プロ又は機械設備のある人以外のアマチュアにとって、穴が加工してあることは 大きな喜びである。
5.チャンバーと煙道とグレインを考え、外観を概ねカットされている。
6.カットして取り除いた部分は、通常のハンドメイドパイプでは不必要な、大きな 傷、ひび割れ、ボウズ(グレインのはっきり出ていない部分)を除去し、短時間で シェイプが完成できるように痒い所に手が届くような気配りがなされている。
7.グレインにあわせて、概ね外観がカットされているため、その中でパイプのイ メージを膨らませなければならないが、切削に要する時間とそれを考えたら、かなり のメリットがあると考えたらよいだろう。
8.吸い口(マウスピース)は互換性があるので、小売店に相談すればかなり希望が 叶うだろう。

この編では、グレイン、木質を学んでもらうことになります。
天然自然素材は二つとして同じものに巡り合う事がありません。それゆえ、グレイン の持ち味、楽しさ、難しさ、作りやすさは悲喜こもごもです。


プラトウからカットプラトウを経て、パイプのデザインまでの図(図1)

カットされたグレインの具体例(図2)
特徴的なカットを記述してみました。材料の表面に納得の行くまでデザインしてみて ください。


グレインの流れの例ですが、特にグレインを強調することが無理なこともあり、注意 が必要。(図3)
前出のように、グレインに過大な期待は厳禁。


これらのグレインを強調する方法を掴み取ることから始めます。
カットプラトウ全体を眺め、どこにどのようなグレインが特徴的に現れているかをま ず見極めます。(図4)

そこに手を加え、グレインを浮かび上がらせて行くのですが、ヤスリ一回でグレイン が現れたり消えたりするのが作業中の楽しみになります。
その段階では当然疵が現れることになりますが、小さな砂粒状、細長い帯状−これは グレインに沿って長いものと、グレインを横切って奥へ深く入っているものの2種類 あり、いろいろと表情が現れたり消えたりしていき、コマ送りの映画のように映りま す。
最終的なシェイプに至る前の切削加工中の疵はなんら問題にはなりませんが、シェイ プまとめ近くでの疵、しかもグレインを横切って奥に伸びている疵はあきらめ、疵を パテ埋めする選択をしたほうが無難でしょう。
その他、砂粒のような疵の処理は、シェイプの少々の変更で済む程度であると思えた ら削除してみては?!
これは多少の賭けともなりますが、天然自然素材の持つ宿命なのです。
疵を取り除こうと懸命に切削した結果、ボウルの厚みが使用に耐えられないほどに なってしまった例もあります。これは誰の責任でもないのです。
但し、チャンバー内に疵が見受けられるものは避けることです。そこから焦げるきっ かけになることが多いからです。

全体のシェイプをイメージしながら製作を進めますが、やはりマウスピースは接合し たまま進めます。(プロは最終加工まではずしません。)
接合したままで仕上げる方法を学び、コツを掴んでもらいたいものです。
ボウルの上端から、マウスピースの先端まで全体が一連の線になりうるからです。
ボウル部分の周囲の厚みを十分に(最低10mm)、それ以外ボウルの底の厚みは6~7mm もあれば十分です。(チャンバーの底を絶対に金属など硬い尖ったもので突かない 事)
シャンクは煙道を考えながら、極力肉を削り取り、スマートな感じを作り出したいも のです。
ラフを残すもよし、削り取るもよし、全体的にシェイプと相談して決めます。(ちな みに、筆者は削り取ってバーズアイを強調することが多い)

ペーパー作業の道具を内緒でお教えします。(図5)
裏に接着剤の塗布してあるロール上のペーパーを貼り付けて使用するパット。先端の 丸みの小さいもの、大きなもの2種類、使用するペーパーの種類分だけ作ると便利。

疵処理の方法・・・プロの手法の秘密をこっそり伝授します。
埋める処理方法は、入門で記述してありますので、ご参考までに。
疵が濃淡のグレインにまたっがっている場合が多いので、次の方法を活用します。
まず、濃いほうの色に合わせて埋め、その後、隣り合って塗り上げて薄い色に合わせ る方法で、薄く塗り上げる場所を針でグレインに沿って周囲のグレインに合わせて疵 を掘る(引っかき傷をつける)。そこに色合わせしたパテを埋め、乾燥した後に仕上げ れば、グレインにあわせたパテ埋めが出来上がります。
木端で何回か試みれば、すぐにコツが習得できます。



 

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